沖縄から帰りました(割と前に)佐々木敦さん×前田司郎さんトークレポート(第一回)


沖縄から帰ってきたその日が!何と「湯けむりスナイパー」ドラマ化の1日目だったのでしっかり見ました。何をやっているんだか。源さんは線が細すぎる気もしますが・・・漫画の源さんの心情吐露が太い文字でいちいち浮かぶところが忠実に表現されています。というか湯けむりは新しい巻も出ていましたが凄い!もう最高傑作だと思います。何が最高って劇画と2008年J−POPのコラボレーションというか、もうあれはコラボと言わず心中というか、そういう恐ろしい試みがされていて、どうしたらああいうことになるのだか、訳がわかりませんが、とにかく凄いのです。としか言えません。読まれてない方は是非。画像以外にも、よりぬきスナイパーも売っていたはず。画像は沖縄のご飯屋さんにあった花輪和一さんの「天水」から。河童さんという、大変な事態のときに妙に落ち着いた言動をする人が出てくる漫画。河童さんは体がボロボロになったり、頭の上に毒を盛られたりいつも大変なことになっていますが、わりとこういうことばっかり言ってます。このひとはいくつなんだ。

湯けむりスナイパーPart3 (1) (マンサンコミックス)

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天水 完全版 (講談社漫画文庫)

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いくつか大変な(素敵な)フェアがあり、大変な(素敵な)トークショーもあるのですが、とりあえず前田さん×佐々木さんトークがまとまったので記します。というかこのお話の量・・・全十回にわけてまとめることにしようと思いましたが、それでも入らないかも。二十回くらいか・・・?馬鹿みたい。今回は第一回。トークは以下から。

佐々木敦さん「批評とは何か?批評家養成ギブス」(メディア総合研究所)
前田司郎さん「大木家のたのしい旅行」(幻冬舎)刊行記念
佐々木敦×前田司郎トークセッション「ながくトーク
(2009年1月22日、場所はジュンク堂書店新宿店8階喫茶室にて開催)


*注*以下の文章ですが、後でレコーダーを確認したところ、レコーダーの近くにあった喫茶室の湯沸し機の音で想像以上に音声がかき消されてしまい、何がなにやらわからなくなった箇所もありました。よって佐々木さん、前田さんの話されたことと解釈が同じではなく、ご本人の仰った言葉とはかなりフレーズが違う部分もあるかと思います。鮮明に聞き取れた所を主に使っているため、はしょった部分も少なからずあることをご了承ください。
青字は対談の気になったところに関するメモです。舞台、小説の引用もあるのでまずい方はとばして読まれて下さい。


佐々木:なかなかこういう(トークの)機会がうまい具合に訪れなかったんですよね。それで、けっこう前ですけど、青山ブックセンターのほうで、(青山ブックセンターにて前田さんが、田中和生さんと行ったトークイベントについて)あの、どうして俺じゃなくて田中和生なんだと・・・

前田:(笑)

佐々木:小説とお芝居の両方で、その2つがどういうふうにして繋がっているのか、繋がっていないのかという、みたいな話を今日は伺いたいというふうに思っている次第です。

前田:はい。

佐々木:大木家の楽しい旅行、最新作ですね、僕も結構早い段階でゲラを頂いて書評を書いたんですが、すごい、・・・前田さん以外に書けないというか、何ていうんですかね、その、発想の初歩段階というかこれは、小説に限らないと思うんですが、具体的に、舞台だったり小説だったりする、一番最初のアイディアはどこから始まるんでしょうか?前田さんの場合は。

前田:大木家に限って言えば、旅行、いい旅夢気分みたいなものを小説に出来ないかなと思って。旅行、旅自体が主役で書けないかなと思って、

いい旅夢気分

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前田さんの他の小説、五反田団の演劇にも「旅」は少なからず登場する。

古くは「逃げろおんなの人」(第十七回公演)。しょっぱなから、女の子の横でだべっている男性二人組の話では、会社の『社長』が『黒澤さん』と『デキて』おり、二人で『熱海』に『旅行』に行ってしまう。この噂話が後に、女の子の夢の導入部分を形成する仕組みとなっており、『座席を向かい合わせる』(電車)という世にも美しい動作が夢に登場する。

「いやむしろわすれて草」(第三十回公演)では、小さい子の手の中で飛ぶリカちゃんのスチュワーデス(飛行機)が登場する。今回、旅立つまでのスパンが異様に長い「大木家」にも共通すると思うのだけれど、前田さんの文章、舞台では「移動しない」旅行の部分が「実際に移動する」旅行の部分と同じ分量くらい登場し、もしかするとそれこそが、前田司郎という人が故意に演出しようとしている、一番重要な部分なのではないかという気さえしてくる。

小説「愛でもない青春でもない旅立たない」(講談社)において、一番すごい、と思うのは、主人公と友人が駅の「ロマンスカー」をただ見てそれに呼びかける動作である。この場合の駅というのは旅行先ではなくてこの2人の最寄り駅であり、「ロマンスカー」を外から見るだけで、主人公たちはそれに「乗ってもいない」。つまり「旅立ってもいない」。考えてみれば上記の『座席を向かい合わせる』という動作は限りなく非日常な、つまり旅行先の動作であるのだけれど、今まで丸椅子であったり長椅子であったりした、簡易な舞台上での『座席向かい合わせ』からは私たちは100パーセント、まるで映画のように旅行を思い描くことは難しい。つまり、時には意外なほど大きいスケールで、旅を舞台上で演出しながらも、本格的には旅立てない、旅立っていないという問題が特に五反田団の舞台ではつきまとうのだが、・・・このような「舞台上の問題」というのは対談のラストにも前田さんの口から登場します。

佐々木:これはえーと、何回連載というのは決まってたの?

前田:6回ぐらいというのが最初から決まってて、

佐々木:いっぺんに出るというのと(書き下ろし)連載で、段階を追って書いていくのは違ってたりとかしますか?

前田:連載のほうが、やっぱり最初に書いたことが後から自分を苦しめるというか・・・(旅行が)一泊二日でいいやと思って書いておいて、一泊二日じゃ入りきらないなと思ったり、「地獄に行く」と言っててさすがに次の日には(早すぎて)行けないだろうという風に思ったりして・・・

佐々木:つまり若干見切り発車的な要素もあるということ?

前田:完全に見切り発車

佐々木:はー

前田:見切り発車です

佐々木:そうなんですか。逆にあれですか?戯曲とかを書くときも結構そうですか?

前田:そう、あまり考えないで書く

佐々木:なんか、あまり考えないで書くということ自体が実は意外とこう、難しいことではないですか?筆にまかせて書いちゃう、一番最後までいっちゃう?みたいな。できる限り終わりの部分まで(行くのでしょうか)?

前田
:ラストシーンだけ書き残す(方法です)

佐々木
:もともとずっとわりとそういう書き方が得意というか・・・

前田:そうですね、先にこりかためちゃうと予想通りの、というか、その日の気分とか体調とかに左右されて、(出来事を)なかったことにしたりとか・・・最初から全部組み立てちゃうとか、しないようにして、予定調和的にならないように。気が変わったら変えられるようにしていこうという・・・

佐々木:それってあれですか、お芝居とかも公演期間が結構あるじゃないですか。そうするとその、途中でこう、いじるというか、お話を置き換えるみたいなことって意外とあると思うんですね、結構変わっちゃうみたいなことっていうのは。

前田:稽古の終わりのほうになったら台詞は変えないですね

佐々木:それは人がいることだから?

前田:それもあります

佐々木:そこは結構、小説と違う?

前田:そうですね

佐々木:小説だと(戯曲のように台詞を固定しない分)そういう、入れ替えられて困る人がいないからいくらでもいじれる、みたいな・・・

前田:戯曲のほうも最近、なんか、そういう甘えが出てきてしまって。俳優も10日間くらいで覚えられるだろう、とか・・・そういうの、あまり良くないんですけれど。


ラストシーンだけ

この手法に関しましてはSPTの最新号、前田さんのインタビューでも触れられていました。

SPT 05 (SetagayaPublicTheatre)

SPT 05 (SetagayaPublicTheatre)

しかし、この対談を挟み、SPTの号と対談の時とで、微妙に前田さんの意見が変化している場所も見受けられました。詳細は次回。