天使とスタンド
漫画家の小田ひで次さん×鈴木志保さんトークショー(司会は大里俊晴さん)に行きました。(場所は当店、ジュンク堂新宿店8階喫茶室にて)
小田ひで次「クーの世界」「続・ミヨリの森の四季」(秋田書店)刊行記念
小田ひで次 × 鈴木志保 トークセッション
「マンガ家を形作ったもの〜マンガ・音楽・映画・文学をめぐって〜」
小田さんがご自身の似顔絵とあまりにも同じなので驚く。大里さんは格好良すぎ、鈴木さんがあまりにもお花のような可愛らしい方で、お声が透き通るような声で、失神寸前になりました。鈴木さんが何かお話される度に「私以外にもここにいる男子全員、今結婚したいと思ったに違い無い」と勝手にカウントしつつ2時間。小田さんと鈴木さんの好きなもの(食べ物だったり音楽だったり写真だったり)をご本人がそれぞれ書き出した、ものすごく貴重なプリントが配られていましたが物凄く面白かったです。全て抜き出すと差し障りがあるかと思うので控えますが、鈴木さんの場合は好きなものが
○異世界
○至世界(至高の世界・ここに辿り着きたいというような世界)
○日常
に分けられて羅列されていたのが面白かった。小田さんに関しては勉強不足な部分が多すぎるので記述を控えますが、カスタネダについてのお話が出てきて小田さんと大里さんで心なしか嬉しそうに話されていて、そうなのか、と思いました。鈴木さんの仰ったことで、心に残ったお話のメモをいくつか。(以下の文章ですが鈴木さん、大里さんの話されたことと解釈が同じではなく、また、私の拙いメモ書きのためかなりはしょった、ご本人の仰った言葉とはかなりフレーズが違う部分もあるかと思います。ご了承ください)。
鈴木:(Little Girl Giant[フランスの大道演劇グループによる、巨大な女の子の人形をクレーンで吊り、あたかも生きているかのように操るパフォーマンス・下の動画]について)巨大な女の子が目覚めるところから始まるんです。BGMはフランスのプログレバンドなのだと思うけれど、初めて女の子が外の世界に触れるというところで、あまりにも清らかな、世界の美しいところだけを見せている、というか、この女の子だけには美しいものだけを見てほしいという清らかな気持ちになるんです。
大里:「船を建てる」においては、すでに世界は終結しているというような感じで描かれていますね。可愛らしいキャラクターが登場しますが終末感に満ちていて。それらはどうして出てきた終末感なのでしょう?また、どのように変わっていくのでしょう?
鈴木:自分自身の旅だったりします、振り返ると。キャラクターを(あしかなど)可愛くしたのは話自体が終末感があって、何だろう、人間で描くと描けないようなところまでキャラクターを動物にしたら描けるかなと。心がエンド・オブ・ザ・ワールドに住んでいたんですね。最近は作品にして描き切ったので、気が済んだというか。
鈴木:(自分だけの力で漫画を描いている気がしない、という話について)誰か、人が助けてくれているような気がして。『ジョジョの奇妙な冒険』で、スタンドがついている、という話がありますが、(漫画を描くのにも)スタンドが来ていると思うんです。漫画家さんの中でも、ずっと同じスタンドがついている人もいれば、いろいろ、その時々の作品によって全く別のスタンドがついている漫画家さんもいらっしゃる。私の場合、作品ごとにスタンドは違うスタンドだと思います。(船を建てるにおいては)基本の、ずっとついているスタンドというのがいて、オプションとしてつくスタンドがその時々によって異なっていて。「船を建てる」は若いころのエネルギーを注ぎ込んだのでとても大事な作品です。(スタンドに)優劣はありません。
鈴木:昔は凄く世界は悲しみに満ちていると思っていて。ただ、悲しみに満ちていたのは自分だったということに気がついたのですが、やっぱり世界から変わってほしい、と思うじゃないですか、しかしそれはないんですね、自分から世界へ、と変わっていくしかない、
鈴木:(プリントの「リサ・ランドール」[五次元理論を発見したアメリカの理論物理学者]について)重力っていうのは弱すぎるんですって、だって、こうして大きな地球が、皆を引き付けているにしてはこうして、小さい磁石で針を引き上げられるように、磁力で重力に勝つことができるじゃないですか、地球に引き付けられているのに(手足を振り上げ)こうして、歩くことができる、それっていうのは、重力が、どっかにもれているはずであると。五次元に、重力がもれているのではないかと。
そういえばバッハフェアをしていたとき「『船を建てる』どう考えてもバッハとしか思えないじゃないか」と思っていたのですが、今日プリントで、やはり鈴木さんが「至世界」のところにヘンデルやメサイアと共にバッハをあげられていて、そうかあと思いました。「船を建てる」タイトル源はコステロなのか?それともロバート・ワイアットなのか?のお答えも聞けて良かった。今回、イベントにあたって「船を建てる」(上下巻)を読み直しましたが最初はその白い画面と黒い画面とのコントラスト、二匹のあしか(コーヒーと煙草)のシルエットのみが小学生のころは頭に残って離れなかったものの、大人になってから読むと台詞でもう駄目だ(いい意味で)ということがわかります。
「おじいさんが お腹がすいたり 寒かったり さみしかったりしないか
わたしは心配でしょうがないんです
お腹がすいたら ごはんを食べさせてあげるし
寒かったら 着物をきせてあげるんですけど
さみしいのはどうしたらいいか わかりませんねえ」
「コーヒーが最初っから いなかったことにしてください (中略)そうしたら こんな悲しい思いは しなくてすむもん」
「船を建てる」(上)(秋田書店)・p398、p265〜266より
清らかな気持になるということがどれだけ痛みと苦しみを伴うか、俗な言い方ですが、誰かのために祈ること、もしくは祈ったことがあるということ、が巻のはじめからおわりまで数え切れないほど異なった形で描かれていて、しかもそれは「ドリフターズ」であったり「レコード盤」であったり「レコーダー」であったりするので油断がなりません。全体を通して出てくるモチーフとしてキリスト教的状況、ガブリエルであったりコーヒーに生える羽であったりつりさげられた鯨であったり、そういうものが出てくることはもちろんなのですが、台詞は本当に身を切られるようなものが多くて驚きました。
きょうのトークは「スタンド」という言葉と同じくらいに「天使」という言葉が出てきていましたが、最後に天使っぽい話。最近、買おうと思った本を探す前に本屋で誰かが私の欲しい本を平台の別の本の上に投げておいてくれるので探す手間が省けて申し分ありません(断じて嫌味ではありません)。行くのは小さい本屋が多いので偶然なのかなあと思いますが、本当にそうなのでちょっと怖い。しかも、投げる本がサブカルコーナーでアイドル本、とかいうのであればまだ納得しますが、コミックコーナーに「向田邦子 暮しの愉しみ」とかビジネスコーナーで「同棲時代」なのは本当に私のスタンド、もしくは天使が故意にやっているんだろう、という気にさせます(だからと言って、当店での天使行為はやめて下さい)
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